負けないでZARDで元気を
　　

　　　　---初のベストアルバムに寄せて---

ZARDのベストアルバムを買った(「ZARD BEST COLLECTION〜軌跡」)。
初のベストアルバムだそうである。

宇多田ヒカルのアルバムを買おうと思って、何軒かのCDショップでJ-POPコーナーを見ていたときのこと。聞き憶えのある曲が魅力的な女性ボーカルで歌われていて、音の出所を探して行くと、美しい女性の写った大きな看板とビデオクリップで、ベストアルバムの発売予告をやっていた。それがこのアルバムで、曲は「負けないで」であった。
なぜこの曲を聞いたことがあるのか自分でもよく分からないのだが、これは発売されたらすぐ買おうと思い、発売日を待ちわびていた。1999年5月28日(金)に発売され、翌29日(土)に即ゲットしたというわけである。

初回出荷分には、限定で写真やディスコグラフィーの載ったパンフレットがつく。このパンフレットを眺めながら曲を聴き進んでいくと、「負けないで」だけではなく、題名は知らなかったが聞き憶えのある曲がズラリと並んでいることに気付いた。それもそのはずで、シングルやアルバムのミリオンセラーも多く、カーラジオなどで流れていたことも多かったはずである。テレビでも、ドラマなどで使われていた曲が知らず知らずの間に記憶に残っていた、というものもあるだろうし、新譜の予告または宣伝で何度も見聞きしている。そうした宣伝やCDのジャケットには美しい女性が映っていて、ZARDというと、実はその女性「坂井泉水」ひとりだけで成り立っている「バンド」で、歌詞を書いているのも彼女自身であるということも、改めてこのパンフレットで確認することができた。

いいですねぇ。とにかく声がいい。その声で、聞き取りやすい歌詞をす〜っと載せて心に届けてくれるという感じである。最近のJ-POPと称する音楽は英語とチャンポンになっていたり、日本語も英語的に発音してみせたり、音符への割り振りが不自然だったりして、歌詞カードを見ないと何を言っているのか殆ど分からないことが多いように思うが、彼女の歌は歌詞カードなしで大体何を歌っているのかが分かる。音として聴きやすいだけではない。歌詞の内容そのものも、意味の取りやすい、ごく自然な流れの中で選び抜かれた言葉で成り立っている。押し付けがましい処もなく、絶叫もないが、全体として「元気の出る」感じがする。そりゃあそうでしょう。美しい女性にこの声で、こんなに選び抜かれた言葉でやさしく励まされて、元気が出ないわけがない。とにかく、元気の出るアルバムである。

このテのCDは、途中で飽きるか疲れるかして、1枚を通して聴くことができないことが多い。しかし、こんなわけで、このアルバムは1枚を通して聴いてしまった。

宇多田ヒカルのアルバムが600万枚を超えるという未曾有のヒットとなったばかりだが、このZARDのアルバムも、オリコンによると、発売の週に初登場で1位となり、１週間で１００万枚を突破したそうである。300万枚も見えているとか。そうでしょうそうでしょう。まずは慶賀の至りである。600万枚などというのは、社会現象ないしは「事件」として到達できる枚数であり、普通のベストセラーなら100万枚で十分なのではないか。それも、一度限りでなく、何枚もミリオンセラーにしてきた実績を持っているというのが強みである。

それにしても、アナログレコードの時代、LPはおろか、シングル(EP)でもミリオンセラーなど滅多に出なかったものであり、出たとしても演歌の類いが多かったはずだ。そして、ミリオンセラーが出たときは大いに話題になったものだ。今ではこうしてどんどんミリオンセラーが出ているし、それも「アルバム」であることも多いわけだ。

レンタルショップが合法化される以前、レコード会社側から「レンタルショップが合法化されたら、レコードが売れなくなる」と言って反対していた。現在、レンタルショップも色々な街にあるのに、なおかつこんな状況になっている。少なくともこの点ではレコード会社というものが、いかに先が見えなかったかを物語る結果となっているわけだ。

【2009年2月追記】
2007年5月27日、坂井泉水は入院中の病院で急逝した。享年40歳。
上記のベストアルバム以降もシングルを時折購入していたし、まだまだいい曲を出してくれるものと思っていたのでかなりショックだった。
一応事故死とされているが真相は不明。状況が不自然であることから、自殺説も濃厚。私も自殺説を採る。「負けないで」というメッセージで聴く者に元気を与え続けてくれた人が、何に負けたのだろうか。重い病気にかかり、「もう歌えないかも知れない」と考え出すとどんどん闇にはまってしまったということなのか。

【本稿について】
宇多田ヒカルのアルバムが600万枚という驚異的なセールスを記録した頃の記事であり、当時の雰囲気を残すため、2010年8月時点での改訂は行いませんでした。