著者あとがき

【頓珍感】著者あとがき

全く自覚症状も覚え無いままに胃癌の宣告を受けて入院し、3ケ月後に手術無用との事で退院、順調に体重も増えて安心して居た矢先に、1年後に念の為にと検査を受けた結果が意外や意外、即刻手術が必要と言うので再度入院して胃を3／4、胆嚢、周辺のリンパ腺を切除した。経過は順調で3ケ月で退院、第一回目の節目と言われて居た2年も無事過ぎたので、この分なら取り敢えず80才までは大丈夫だろうとの事であった。

入院生活も生まれて初めてだったが、『死』を見据えて6ケ月ベッドに横たわったままで過ごした訳で、色々な、今まで思いも掛け無かった様な事に気が付いた。
其の結果決心した一つが『献体』である。後に残る者に葬式の心配を掛けず、其の上医学の進歩にチョッピリ貢献出来るのだ。もう一つは、若しも何年か命があると判ったら、せめて一冊でも本を書いて残したいと言う事である。

人の目を惹く様な標題から考えて『虚数の時代』と言うのが面白いと思った。21世紀は今までの様な表面に現れて居る実数の世界よりも、此れまでは見逃され勝ちであったウラの、数学的に言うならば『虚数』部分の重要性が認識されてて来るであろうと兼々思って居たからである。然し頭の中で色々組み立てて見て、ドウもモ一つ充実した物に仕上げる自信が出て来ない。其処で止むなく『頓珍感』に変更した訳である。

此れならば全体的な構想も要らないし、何時でも適当に切り上げても良いので気が楽である。そう考えて無計画に始めたのだが、結構ハマッテしまって、本来はモット気楽な軽いタッチの物を目指して居た筈なのにヤヤ堅苦しく、力み過ぎた感じの物になった様だ。それに半分は歳時記の様な事になったのも、予定外なのだが、折々のテーマを考えて居るとツイツイそうなったのである。ただしどのテーマにしても、在来の論議とはドコかヒト味は違う切り口を入れる事は心掛けて来た積もりである。

初めの頃は寿命の内に果たしてホドホドに纏まるかどうか、心配して居たが段々にハマッて来ると、今度は切り上げるのが何となく心残りの様に感じ出して、もう少し続けたい気持ちも強いのだが、余り洗いざらいに書くよりも余韻を残して止める方が床しかろう。注釈も同じ事が言える。

そう言った次第なので、言葉足らずの所、また無責任な直感論が多い等、気にし出すとキリが無いので、総てを読者のゴ寛容にお縋(すが)りしたいと思うのである。

（平成11年1月11日）

追稿【頓珍感】発刊の弁(自費出版体験記。改行は編者)

胃癌の手術で入院したのが五年前の事であった。何年か経つと、ハッキリした年は中々思い出せないものだが、此の場合はスグに判る様になって居る。例の阪神大震災の起った年なので、テレビでも新聞でも、何年だ、何年経った、と報らせて呉れるからである。

実はその二年前の秋口から体重がメキメキ減り始め、それまで67kgで管理して居たのが半年程で60kgを割る様になった。一度病院に行こうと思っていた矢先に、ある日突然に食事がノドを通らなくなって、慌てて近くの病院で診て貰ったが、市民病院で精密検査する様にとの事で、○○市立病院へ廻ったが、癌との診断で、直ちに入院させられた。震災の前年一月の事であった。

とり敢えず、絶食して点滴だけ、寝たきりの生活が二ケ月続き、その間、色々な検査があり、手術するか、しないで済ませるか議論されたが、急に症状が良くなって来て、結局三ヵ月の入院生活後、手術しないままで退院した。その後、一ヶ月毎に検査の為に通院して居たが、50kgを割っていた体重も一年近くで7kgばかり回復し、満一年後の検査で恐らく「完治」になるものと自分でも信じ、主治医の先生も同様の見込みであった。

震災の時はタイした被害も無く、被災地の様子を見に行ったりしたが、その直後、最後の定期検診の積もりが案外の悪い結果で、再入院し直ぐに手術という事になった。予想以上に時間も掛り、胃の3/4と胆ノウ、淋巴管等を切除した。幸い経過は良好で約三ヶ月で退院した。

二年ばかりの間に通算半年近くの入院生活を送った訳で、殆ど寝たキリの状態で色々な事を考える時間がタップリ有ったのである。殊に「死」と向き合って色々考えを整理する事が多かった。オ医者や看護婦達の献身的な働きブリに感心し、死後は医学の進歩を祈念して『献体』する決心もした。
また術後ホボ五年刻みで寿命のフシ目が来ると聞いたので、とり敢えず五年は生きよう、そしてその間に何らかの形でエッセイ集でも作って残すことにしようと心に決めたのであった。

退院後も色々構想を練ったが、二十一世紀を見据えて、『虚数の時代』と言ったものを纏めたかったが、余程、数字も勉強し直す必要もあり、万一途中で寿命がツきた時は、中途半端な形のモノしか残らないので、結局はツレヅレなるままに雑文を書き集めた雑学の本にする事にした次第である。
一年半程で原稿を作り、アチコチの出版社に打診したが、興味を示す割にムシの良い条件しか出して来ない。その中に縁あって、○○社の事を知り、良心的な仕事ブリに好感を覚え、即座にお願いする事にした訳である。仕上りも予期以上に立派で、本当に良かったと喜んでいる。

内容は単なる知識の受け売りではなく、一味違った切り口を持たせるよう心掛けた積りで、縁あって読んで戴いた各位のゴ批判を賜れば嬉しいと考えている。
(2014年10月、発刊の弁を追加掲載)

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